中西名誉園長のコラム 第14回 干支(えと)の「ヒツジ」が名前につく植物

 干支の名前がついた植物の中で、ヒツジ(羊)は最も少なく、ふつうの植物図鑑に載っているのはヒツジグサ1つだけです。ヒツジグサのヒツジも後から紹介するように動物のヒツジに由来するのではありません。羊が一般的に導入されたのは明治以降ですから、植物の名前に使われることがなかったのでしょう。しかし、もう一つ、ヒツジの名がついた植物があります。それはヒツジシダと言う植物です。これはほとんど知られていない和名で、沖縄に見られるタカワラビのことです。和名ではヒツジのつく植物はこの2つだけですが、中国から伝わった名前、すなわち漢名ではいくつかあります。シダを漢字で「羊歯」と書きますし、「淫羊藿(イカリソウ)」、「羊蹄木(フイリソシンカ)」、「羊乳(ツルニンジン)」、「羊帯来(オナモミ)」、「羊屎菜(メナモミ)」、「九子羊(ホドイモ)」などがあります。この中で、日本の文献にもしばしば載っているものも含めて、ヒツジの名がつく植物を以下に紹介しましょう。

羊草:ヒツジグサ(スイレン科)

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図1 (写真提供:松尾美和子さん)

 全国の池や沼に生育する多年草。葉は卵円形~楕円形で、スイレンのように水面に浮んでいます。花は白色で(図1)、花弁は8~15枚で、羊の刻(午後2時)ごろに開き、夜は閉じます。販売されている園芸種は、外国産のスイレンとの雑種で、開花時間は決まっていません。ヒツジグサは日本だけでなく、ユーラシア大陸に広く分布します。

羊羊歯:ヒツジシダ(一名:タカワラビ)(タカワラビ科)

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図2 (写真提供:渡辺たづ子さん)
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図3

 東南アジアから台湾、琉球列島まで分布し、葉は高さ3mほどにも伸びる大型のシダです(図2)。世界各地でこの根茎から仔羊のおもちゃを作ることから、ヒツジシダと言われています。この根茎には黄金色の絹毛が密生していて、この根茎の先端部を4本の葉柄の基部を残して切り、ひっくりかえすと、仔羊に似たものが作れます。ヨーロッパでは古くから「韃靼(だったん)の植物仔羊」あるいは「シシアの仔羊」の伝説があります。これは中央アジアの動物であって植物で、その羊の子は地中で生まれ、へその緒でつながった茎の上に生育し、体をかがめて周囲の草を食べ、その草がなくなるとやがて死んでいくと信じられてきました(図3)。その正体はこのヒツジシダのことであろうと考えられています。

淫羊藿(いんようかく):イカリソウ(メギ科)

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図4 (写真提供:松尾美和子さん)    

 昔中国に羊飼いの老人がいました。多くの羊の中に、群を抜いて毛の色も麗しい一頭の雄羊がいて、毎日多くの雌羊と交尾していました。羊飼いが不思議に思い観察していると、この雄羊が時々群れを離れ妙な草を食べているのを発見しました。羊飼いはその草を煎じて飲んでみると、思いがけなく、五体に精力がみなぎり、白髪は黒く変わり、若返りました。さっそくこの草を皇帝に献上すると、自らもお試しになり、この草を「淫羊藿(いんようかく)」と名付けたそうです。中国のイカリソウと日本のものとは種類が違いますが、日本のイカリソウ(図4)も同様な効果があると思われています。イカリソウはいろいろな種類があり、長崎県にはバイカイカリソウがあります。尚、イカリソウという名前は花に距があり、その形が錨に似ていることから名づけられました。

 

羊蹄木:フイリソシンカ(マメ科)

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図5
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図6

インドからミャンマー、中国南部に分布し、熱帯から亜熱帯では公園などによく栽培される花木です。日本でも沖縄でよく見られます。当園では芝生広場に行く遊歩道沿いに植えられています。高さ5~10mくらいに成長し、春にピンクの美しい花を咲かせます(図5)。英名でオーキッドツリー(orchid tree)と言い、花がランと似ていることからつけらました。漢名を羊蹄甲と言い、そこから羊蹄木とも言われています。葉の形がヒツジのひずめに似ているからでしょう(図6)。

羊乳:ツルニンジン(キキョウ科)

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図7(写真提供:松尾美和子さん)

 北海道から九州までの林縁部に生育するつる性の多年草。葉は互生ですが、側枝に3、4枚集まり、輪生のように見えます。葉はほとんど無毛で、質は薄く、長楕円形。花は8~10月に、つりがね形の長さ2~2.5cmの花を咲かせます(図7)。細いつる草にこのような比較的よく目立つ花を咲かせますので、見つけた時にはカメラを向けたくなります。中国名では羊乳といいます。茎を切ると、白い乳のような液体が出てきます。これを羊の乳にみたてたのでしょう。