中西名誉園長のコラム 第2回 亜熱帯林と亜熱帯植物の分布の話

当植物園の名称は「長崎県亜熱帯植物園」ですので、今回は少し難しい話になりますが、亜熱帯や亜熱帯植物について解説しましょう。

a. 亜熱帯はどこ

 亜熱帯は熱帯に次いで気温の高い地域のことですが、その定義は学問分野や研究者によって異なっています。一般には北回帰線と南回帰線付近の緯度が20~30度あたりのことをさすようです。最寒月の最低気温平均が0℃以上の地域とか、年平均気温が18℃以上の地域とか、月平均気温が10℃以上の月が9カ月以上の地域などさまざまの考え方があります。しかし、これらの数値は植物の分布に基づいて考え出されたものであり、結局、「亜熱帯とは亜熱帯植物が分布している範囲」と言うことになってしまいます。日本では、亜熱帯は琉球列島と小笠原諸島が含まれることは、多くの人が認めてますが、その北限はどこでしょうか。

     

b. 亜熱帯の北限

 亜熱帯の北限がどこであるかについても、研究者の間で考えが異なっています。 ① 種子島・屋久島の南にある、②屋久島・種子島の北にある、③九州南部から四国南部を経て紀
伊半島南部にあるという主に3つの異なる考えがあります(図1)。これは群落の種組成、植物区系、フロラ、亜熱帯を代表する植物の北限など、その基準が異なるからであります。その中で「代表的な亜熱帯植物の分布北限を重ね合わせたものを亜熱帯の北限」と考えると長崎県では五島列島南部や長崎半島南部は亜熱帯に入るかも知れません。代表的な亜熱帯植物とはリュウビンタイ(図2)、ヘゴ(図4)、アコウ(図5)、クワズイモなどで、これらは亜熱帯ではふつうに見られる植物です。

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図1.亜熱帯の北限線

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図2.亜熱帯植物のリュウビンタイ

c. 亜熱帯林(亜熱帯多雨林)の特徴

 高木層を構成している樹種は暖温帯と似ていますが、特定の一種が優占していることはなく、複数の種で構成されています。亜高木層も暖温帯林よりも多くの構成種からなります。高木層と亜高木層はスダジイ、タブノキ、クワノハエノキ、イスノキ、オキナワウラジロガシ、コバンモチ、ホルトノキ、フカノキ、フクギなどからなります。低木層や草本層の構成種は、熱帯と共通の種や属の植物が多く生育しているのが特徴です(図3)。ヤシ科であるクロツグ、ビロウなど、アダン科タコノキ属、クワ科イチジク属、サトイモ科クワズイモ属(クワズイモなど)、ショウガ科ハナミョウガ属(アオノクマタケランなど)、イラクサ科キミズ属や、シダ植物では、木生シダであるヘゴ科(ヘゴ、ヒカゲヘゴ、オニヘゴなど)、リュウビンタイ科、チャセンシダ科オオタニワタリの仲間など多くの種が生育しています。

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図3.亜熱帯林の断面模式図

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図4.長崎県が北限のヘゴ

図5.気根を出して大木になるアコウ
図5.気根を出して大木になるアコウ

d. 九州西部における亜熱帯植物の分布

 亜熱帯植物の分布の北限は、主に冬期の気温によって制限を受けるため、九州西部でも東部でも同じように分布の限界があります。しかし、中には変わった分布型を示す植物があります。

①九州西廻り分布型植物

これは琉球列島や九州南部に分布し、さらに北上分布する亜熱帯性植物の中で、九州東部すなわち宮崎県から大分県の方へ北上するのではなく、九州西部すなわち熊本県、長崎県へと北上分布する植物があります(図6-13)。これを「九州西廻り分布型植物」とよんでいます。

図6.サキシマフヨウの分布
図6.サキシマフヨウの分布
図7.ハマジンチョウの分布
図7.ハマジンチョウの分布
図8.サキシマフヨウ
図8.サキシマフヨウ
図9.ハマジンチョウ
図9.ハマジンチョウ
図10.キイレツチトリモチの分布
図10.キイレツチトリモチの分布
図11.タヌキアヤメの分布
図11.タヌキアヤメの分布
図12.キイレツチトリモチ
図12.キイレツチトリモチ
図13.タヌキアヤメ
図13.タヌキアヤメ

このような分布型を示す植物は約30種もあります。この理由として、九州西部は島が多く、対馬暖流の影響で冬期に温かいこと、氷期には分布のレフェジア(避難所)となっていたこと、九州東部はかつて溶岩流の影響を受けたことがあるなどが考えられます。

参考文献
中西弘樹 1996.九州西廻り分布植物:定義、構成、起源.植物分類地理47:113-124.

②島嶼偏在植物

亜熱帯植物の中には九州北部まで分布するものがありますが、本土側には分布しておらず、無人島を中心とした島嶼部に偏って分布しているものがあります(図14-17)。島嶼部は本土側に比べて温かいことや、自然が保たれている、台風によって自然攪乱を受けるなどが、島嶼に偏在的に分布する理由としてあげられます。

図14.ハカマカズラの分布
図14.ハカマカズラの分布
図15.サツマサンキライの分布
図15.サツマサンキライの分布
図16.ミヤコジマツヅラフジの分布
図16.ミヤコジマツヅラフジの分布
図17.ビロウの分布
図17.ビロウの分布

参考文献
中西弘樹 2010. 九州北部における島嶼偏在植物の分布と生態.植生学会誌27:1-9.

e. 長崎半島に見られる亜熱帯植物

亜熱帯植物園のある野母崎地区は、長崎半島の中でも温かく、長崎市北部では見られない亜熱帯植物が見られます。その主なものはヘゴ、リュウビタイ、ヒロハノコギリシダ、ケホシダ、モクタチバナ、ハカマカズラ、アオノクマタケラン、ギョボク(図18,19)などです。特にギョボクは九州南部から琉球列島に分布していますが、野母町権現山でも発見されました。

図18.ギョボクの分布
図18.ギョボクの分布

図19.ギョボク
図19.ギョボク

参考文献
中西弘樹 2013. 第1節 長崎の植物.新長崎市史第一巻.pp.190-220.